ルート営業に携わると、困ったお客さんや苦手なお客さんを担当することはよくよくあることです。取引先に行きたくないと頭を悩ませることもあるのではないでしょうか?
筆者である私は、学校を卒業したあと8年程営業職に携わっていました。ルート営業が8割~9割、ルート営業の時間の合間を縫って新規開拓をする形態でした。
個人事業主の方や中小企業の役員と従業員の方、団体職員の方、定年退職された方や年金を受給されている方、専業主婦の方など担当するお客さんの層は広かったです。
私が遭遇した困ったお客さんや苦手なお客さん、なんだか嫌なお客さんのケースをエピソードを交えて紹介します。
お客さんの無駄話が長くて、訪問先からなかなか帰ってこれない
打ち合わせや商品の案内、納品といった仕事が一通り終わった後、お客さんが自分の近況や最近のニュース、今日の予定、昨日起こったことなどを話しだすというケースです。
打ち合わせや商品の案内、納品まではスムーズに進みますが、その後が長い。
自分の仕事のことや趣味の話を始めると、もう止まらなくなってしまう人も。
自分のことばかりを一方的に話してこちらはほぼ聞いている状態です。色々と語りたいことがあるのだなと感じていました。
ですが、お客さんに決して悪気はありません。
私も最初はそれなりに会話のキャッチボールをしたり、ヨイショしたり、話を盛り上げたりするのですが、徐々に次に訪問するお客さんのことが頭をよぎってきます。途中から私がトーンダウンしていくのですが、それでも話が止まることがありません。
そろそろ次の取引先へ向かおうと思い、「では、また来月お邪魔します。」とか「週末にお届けします。」というセリフを言っている途中に、かぶせ気味に新しい話を始めるなんてことも。
帰る素振りを見せようとカバンを手に取ると、お客さんがまた別の話を始めるということもネタではなく本当にありました。
話が長くなるお客さんは、昔から利用して頂いている取引の厚い重要なお客さんであることが多いです。
また自分の営業成績があまり良くない時やノルマを達成できていない状況の時、お願いをしてみるとお付き合いで商品の成約をしてくれる人が多いのです。
こちらから話をスパッと切って帰ってくるのもやはりためらいがあります。
「重要な取引先だし、無下に話を遮って帰ってくるのも気が引けるなぁ・・・」
「あぁ・・・そろそろ次のお客さんのところに行かないとなぁ・・・先方から時間の指定もされているし・・・」
「話・・・そろそろ終わってくれないかぁ・・・」
という狭間で揺れるという経験は数えたらきりがありません。
他のお客さんのために充てる時間が少くなりますし、1日の営業活動スケジュールに支障が出てきます。
ベテランの営業の方であれば上手く頃合いを見て帰ってくることができるのでしょうが、経験の浅いうちはなかなか難しいです。
過剰な要求をしてくるお客さん
私が営業職として在籍していた会社では値引きをできるような性質の商品は扱っておらず、商品成約すると特典や粗品を進呈することが多かったです。
値引きをするような性質の商品ではないため、お客さんの中にはその代替として過剰な要求をしてくる人や事業内容や業務内容とはまったく関係のない雑サービスを求めてくる人もいました。
「これ(特典や粗品)、あと2つ欲しいんだけど、今度持ってきてくれない?」と当たり前のような顔で過剰な要求をしてくる人も中にはいる訳です。
定められた数(たいていは1個)の粗品を持って行くと「前に来ていた◯◯さん(前任者)はもっとサービスしていたよ、あなたサービス悪いよ」と言われる始末。
「持ってきてくれないなら、もうお宅の会社を利用しないよ」などと解約や取引の中止をほのめかす発言をする方も1人2人ではありません。
解約や取引の中止をほのめかすことで、要求を呑むだろうと考えているのです。
私が営業職として在籍してきた企業は、顧客にお願い営業を繰り返しているような企業でした。困ったらとりあえず「お願いする」というスタイルです。当然ながら私も営業成績が芳しくない状態で月末が近づくと、お願い営業を連発していました。
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お客さんから過剰な要求をされてしまうのは、ルート営業を通して、長年お願いセールスをして商品成約を繰り返してきた弊害といえます。
お客さん側も「私はお願いされている側で立場が上なんだから色々要求しても構わないだろう」という思考に自然と向かっていきます。
ですが、お客さん側に非はありません。
原因を作っているのは、お願い営業を繰り返してきた営業マン側や企業側なのです。
自分のお客さんに配るという理由でカレンダーを大量に欲しがる人
今でも年末が近づくと顧客へ来年のカレンダーを配布する企業は多いです。
私がルート営業をしていた時も顧客にカレンダーを配布していました。11月の終わりから12月はじめになると、翌年1月始まりのカレンダーを大量に欲しいという方がいました。自身や家族で使うと思われる量をはるかに超えた量です。
自分「カレンダーこれくらいの数でいいですか?」
お客さん「もっと!」「これじゃぁ足りない!」
自分「じゃぁ、あとこれくらいでいいですか?」
お客さん「もっとだって!」
自分「では、このくらいでいいですね?」
お客さん「違う!このくらい!」
自分「・・・・・」
自分「カレンダーが足りなので、不足分は後日持ってきます。」
なぜそんなに大量に何に使うのかと聞いたところ、「年末に自分の店に買い物に来たお客さんに配るんだ!」と堂々と発言するかなりの強者です。
「それって本来、自分の会社でお金を払って用意するものなんじゃないのだろうか・・・」と思う訳ですが、当たり前の様子で毎年カレンダーを大量にもらうのです。
営業マンがお願い営業を繰り返し、商品成約をしてもらった代わりに過剰な要求に応え続けていると、いわゆる「普通の感覚」「常識的な感覚」がもはや通用しない人も現れてきます。
所有しているアパートの様子を見に行きたいという要望を受け、現地へ車で乗せていく雑用
アパートを所有して賃貸収入を得ているお客さんから、所有するアパートの様子を見たいから現地まで車で乗せて行って欲しいという要望されたことがありました。
私が営業職として在籍していた会社は、不動産や建設関係の業務を行っていませんでしたし、そのお客さんのアパート建設・維持について何か接点がある訳でもありませんでした。業務内容とまったく関係のない雑サービス・雑用といえます。
営業先(お客さんの自宅)で「今度、◯◯町にある自分のアパートの様子を見たいから車で乗せて行ってくれない?」と尋ねられましたが、とりあえず「YES」とも「NO」とも判断できない「うーん・・・あぁ・・そうですか・・・」という歯切れの悪い返事でお茶句を濁すことにしました。
私の心の中は「はぁ?何それ?意味分かんねぇ・・・」という状態です。
「隣町に住んでいるあんたの長女、車持ってるだろ??長女に乗せて行ってもらえよ!普段、週に1回車で一緒にスーパーに買い物に行ってるだろ?スーパーに買い物に行った帰りにアパートの様子見に行ったらいいんじゃねぇの?」
「確かに昔から利用してもらって取引関係もそれなりにあるかもしれないけど、そこまで世話しなきゃいけねぇの??」
「昔からそこそこ取引があることを楯にしてただの都合のいい使い走りにしてねぇ?」
などと心の中で思う訳です。
その日はとりあえずお茶を濁して帰って来ることにしました。
後日、店舗の長から「◯◯(自分の名前)、ちょっと! お前、◯◯さんにアパートに車で乗せて行って欲しいと言われて断ったんだって?」と問い詰められることとなります。
どうやらそのお客さんが店舗に来店した際に、私がお茶を濁したことを店舗長に伝えたようなのです。
自分 「あぁ・・いえ・・断った訳ではないんですが・・・」
それに対し店長は「なんだお前嫌か? うーん・・・じゃぁお前が行かないなら俺が車で乗せて行く!」と言うのです。
私の心の中は「いやいやいや・・・それも意味わかんねぇし・・・店長あんたもどうかしてるよ・・・」という状態です。
どうやら店長はだいぶ以前に営業担当者としてそのお客さんを担当していたという経緯があり、面識がある様子でした。
店長に「じゃぁ、そうして下さい!」と言いたいところですが、現実は中々そうはいきません。
店舗の長に雑用的なことをしてもらうのはさすがに気が引けてしまいます。
「そうですか。少し日程を調整して私が車で乗せて行きます。」と店長に伝え、日程調整をして後日私がお客さんを車で乗せて行くことになりました。
営業車でお客さんの自宅に迎えに行きアパートへ向かい、所有するアパート2棟の外観や周囲の様子を見て、最後に自宅へお客さんを送り届けるという業務内容とまったく関係のない雑用・雑サービスを行った経験がありました。
結局のところ、普段からその場しのぎでお願い営業を繰り返し、半ば無理矢理に商品成約をしているからお客さんに訳の分からない過剰な要求をされても、なかなか断ることができない状態となっているのです。
お願い営業。本当にいいことがありません。
ルート営業の場合、お客さんを簡単に切れない
ルート営業の場合、前任者との引継ぎを経て新しく担当したり訪問するのは、これまで取引のある既存のお客さんとなります。
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車でルート営業をする場合、ガソリン代というコストや時間がかかります。コストがかかっても既存の取引先へ訪問するのは、長年それなりに自社の売上高や利益につながっているお客さんであることが多いからです。
また、自分の上司や現在取締役などの役員となっている方が、現在自分が担当しているお客さんを昔担当していたということも多いです。自分の上司や役員の方が非常に懇意にしていた取引先であるということも考えられます。現在もゴルフをしたりする仲で付き合いがあることも考えられます。
例えば自動車販売店の営業マンの場合、嫌な相手・困った相手には値引きをせず、間接的に売らない方向に持って行くこともやろうと思えばできるはずです。売りたくない相手にはお引き取り願うということです。
ルート営業の場合、結局色々なしがらみがあって、自分が苦手だと感じていたり、困ったお客さんだと感じていても、スパッと切ることができないのが難しいところであります。
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困ったお客さん 実は自社が生み出してしまっているかもしれません。
ルート営業先で顔を合わせるなんだか面倒くさいお客さん、ムカつくお客さん、実は自社が生み出している可能性があります。
原因となっている1つは、お願い営業です。
お願い営業をすることで、本来は対等なビジネス関係が崩れてしまいます。お願いをする営業マンが下の立場となり、訪問先のお客さんが上の立場に自然となってしまうのです。
お客さん側もお願いをされて、長年それに応えてきている場合、「そんなにいならい商品でもおたくにお願いされているし、長年要求に応えてきた」「長年お願いされている側で立場が上なんだから、少しくらい要求しても構わないだろう」と考える方も出てくるでしょう。お客さん側も「自分は上の立場なんだだ」と自然と勘違いしてしまっても致し方ありません。
過剰な要求をする困ったお客さんは、はじめから過剰や要求をしていたのだろうかと思うのです。はじめからそういう人であった場合は、そもそも自社と取引を行っていない可能性もある訳です。お願い営業を繰り返した結果、徐々に対等な関係が崩れて、なめられるようになった・お客さん側も「自分が立場が上なんだだ」と勘違いするようになったことが考えられます。
お願い営業は、過剰や要求やサービス、無理難題を提案してくる困ったお客さんが現れる1つのきっかけであると考えています。
長年取引関係にある訪問先から、過剰や要求やサービス、無理難題を押し付けらている場合、現在の営業担当者ではなく、前任者や上司、はるか昔の営業担当者がそのきっかけを作り出してしまっている可能性があります。
ルート営業マンを脅かす困ったお客さんは、実は自社が長年をかけて生み出してしまっているかもしれません。